だるい話NEO

引っ越したらしく

尾米コントフェア感想

尾米タケル之一座のお芝居「尾米コントフェア」を見に行った感想でも。今回は公演がA公演とB公演と2種類あったので両方見た

 

・A公演

 

テポドンキャッチャー

一発目からいきなりド派手なのが来たなというのが第一印象。北の核兵器に対して防衛省が開発した防衛システムがまさかの人力というトンデモ展開。

 

当初はカッコいいデザインのロボットだったはずがどうしてこうなってしまったのかブリーフ一丁のおっさん2人というのもむちゃくちゃで荒唐無稽な面白さがあった。このおかしい状況にツッコミ役は防衛省の新人職員だけでこの後は隙を生じぬ二段構えならぬ多重構えでボケのラッシュが続いた。

 

ミサイルを追いかけるのは人力かタクシー、ブリーフにタクシー代を入れるポケット、素早く動くスペックを見せるために壁に投げつけたスーパーボールを取る、スペックが低下したらタッチのパロディで応援してパワーアップ等々。色々とんでもなかった

 

あと、細かいことになるけれどテポドンキャッチャーは3号と8号の2人で4~7号がいなかったのも実験段階で犠牲になったのだろうかと色々と想像をかき立てられた

 

最後の方にツッコミ役の新人職員が「このプロジェクトに79兆円」みたいなことを言うところがあった。この話では国家予算の無駄遣いと根性論で仕事をどうにかしようとする日本人の気質を批判したかったのかなと思った

 

うぐぅるぅうゔあ゛ぁぁ

前に見た空に落ちたサルでもあったコント。基本的にゾンビのような男たちがうがうが言っているけどたまに人語っぽく聞こえる。ゾンビたちは誕生日を祝ったりとどこか人間臭い

 

出てくる役者は全員男性で女装もしていないのだがプレゼントで渡されたのは女物の服だし終盤にはプロポーズをすることから男女なんだろうかと思った。ではなぜ女装をしていないのかは分からなかった。

 

オチはキスをするかと思いきや噛み付くという終わり方だった。ゾンビは噛まれて仲間を増やすけれどゾンビ度を濃くするとか…?確か裏テーマがあったとも聞いたけれど忘れてしまった。

 

・ブタのカエルのうた

冒頭は青春もの(部活もの)のテイストから始まる。部活が上手くいかなくて辞めたがる男子学生とそれを止める男友達。ここからどんな風に展開していくんだろうと思ったら

 

暗転して名店すると四つん這いになった男たちが並んでいて女王様のような女性が登場する。女王様は鞭で男たちの尻を叩く、四つん這いの男たちは音の高低順に並んでいて鞭で叩かれた順番で曲を奏でる…という話。序盤に見せておいたしんみりとしたテイストがその後に起こる笑いを増幅させているなと感じた

 

・あの時…。

久々に旧友が家を訪れたと思ったら刃物に刺された状態でやって来たが…

 

助けようとするも命を落としそうな雰囲気だけどなかなか死なないという裏切りを楽しむ感じなんだろうと思った。話の設定上「救急車呼ぶからな」「呼ばんでいい」のやり取りは必要なんだろうけどリアルだったらいちいち許可は取らないだろうなと思ってしまったけどまぁそれは多分野暮なんだろうな、と

 

オチはなかなか死なない男に対して「もう帰ってくれ」で終わったけどもう帰ってくれがあの世とも取れる複数の解釈ができるのがミソなのかなとも思った。

 

自分はオチ前で「これはなかなか死なない「非日常」が「日常」になって刃物が刺さった男も刃物がささったままピンピンして「元気してた」「お前が言うか(笑)」「ちょっとリンゴ食べたいからナイフ借りるわ(刃物を抜いてリンゴを剥く)」「ありがとう(刃物を突き刺して戻す)」「もうちょっと丁寧に戻してくれ」みたいなブラックオチ」かなと思ったら違ったのでそこは意外だった

 

・ゾンビと村人と天使と弾丸

ゾンビみたいだけどゾンビではない人がいる紛らわしい村でゾンビを討伐しようとする話。なんか差別のことを言いたかったのかなと感じた

 

村長が教えてくれたゾンビとゾンビっぽいけどそうでない人の見分け方が実質どっちもゾンビで意味がないくだりは面白かった

 

そんな役に立たない見分け方もありゾンビを討伐する隊員がゾンビと思われる存在を射殺するが天使が降りてきて生前の善行を語り連れて行くことでやっと人間だったと分かる。射殺した隊員とそうでない隊員の責任の擦り付け合いが生々しくて嫌な気分になった。演者の方の演技力・観察力の賜物なんだろうと思った。

 

最後に射殺したゾンビらしき存在には天使が素通りしてゾンビであるということが分かる(オチのところでもニュースのアナウンスで「ゾンビを一体射殺した」と報じられる)しかし、そのゾンビの生前妻であったであろうと思われる女性が隊員を睨み唾を吐く。たとえゾンビになろうとも彼女にとっては大事な夫だったということなんだろうと感じた。そして隊員は自責の念に駆られて自殺してしまう。

 

今回はゾンビかゾンビでないかで表現されていはいたが差別の線引きも人次第みたいなことがこの作品を通して言いたかったのかなと思った

 

・AP法

「空気を読む」ことがポイント(エアーポイント)になり空気を読めばポイントが加算され読めなかったら減算されて0になったら危険分子と判断され抹消される社会というのがこの話の世界観、設定だった(空気が読めたら「ヨメテルー」空気が読めなかったら「ヨメテナーイ」と機械音声が流れる)今でもある「場の空気」の暗黙の了解を明確にしてより厳格化した感じだった

 

会社の飲み会で一人空気の読めない新留という男がいて最初は新留が単なる道化であるかのようにさえ見えた。でもそんな単純な話ではなく途中から前述のエアーポイントの説明があって新留の寿命が危機に瀕していることが分かる。

 

だが空気を読もうとしても思ったことを言ってしまう新留は苦戦する。途中で空気の読めない居酒屋店員がポイント0になって抹消されるところをまざまざと見せつけられてしまい見ている側にも焦燥感が伝わってくる。

 

そして会社の社長がやって来るがこの社長が絵に描いたようなワンマン社長で部下を捨て駒くらいにしか思っていないクソみたいな人物だった。新留の同期たちは新留が社長に対して媚を売ることで新留を助けようとするがいざ社長が現れたら新留に売らせようと思った媚びを自分たちで売ってしまう。ここは彼らの薄情さやセコさというよりかは

 

社長は空気の読めてない行動をするのだが「権力者の言うことは絶対で権力者に媚びへつらうのが空気を読むこと」であり社長は権力者側なのでお咎めはない。今の理不尽な社会をそのまま見せられているようで辛かった。なんだったら自分も部下側の気持ちになっていたのかも知れない。それくらい社長役の人の演技が上手かったということなんだろう

 

社長は部下たちに無償で時間外労働を強要させるハラスメントをする。だが自分を押し殺すことが空気を読むことだから部下たちは渋々従う

 

しかし新留は反抗してしまう。気まずくなる空気だが新留は「自分らしく生きて何が悪い」的な言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズンみたいなことを言う。この話のエアーポイントのルールだったらポイントは減るはずなのだが周りにいた他の客たちの共感を得て新留にポイントが溜まる

 

ここで一転攻勢…にならず社長が権力を振りかざして新留を追い詰めてうやむやでオチになったあたりこの劇団らしいなと思った。

 

自分だったらこの居酒屋のパワハラの一部始終がSNSで拡散され、社長は失墜。暗転を挟んで社長にピンスポットが当たりニュースのパワハラ事件のアナウンスが流れる、「パワハラなんて最低」「部下を何だと思っている」「人権侵害だ」といった世間の声が流れる。最初は意地を張る通す社長だったがついには命乞いをするがポイントはどんどん減って暗転、機械音声の「ヨメテナーイ」がこだまするみたいなオチにしてただろうと思った。つまり社長が自分が作り出した空気よりも大きな「世間の目」という空気を読めてなくて空気に押し潰されて報いを受ける…みたいな感じで

 

でもそれって結局安っぽい、スカッとジャパンみたいな展開というかベタな勧善懲悪なんだろうなとも思った。

 

自分は大学の時ゼミの教授がいじめの研究をやっていて教授のいじめ研究の一つに全体主義同調圧力のことがあってそれを思い出したそんな作品だった。あとこれはコントというよりホラーだと思った

 

 

・B公演

 

・かごめかごめ

族を抜けたいレディース、それを許さない総長たち、族を抜けたいレディースを助ける一匹狼の不良の話

 

族を抜けるため一匹狼の不良が族の落とし前ないし制裁を受けるのだがその制裁が根性焼きではなくかごめかごめというところで1つ目の笑いがあった

 

一匹狼の不良がかごめかごめの輪の中に入り止まった時真後ろにいた族のメンバーが一匹狼の不良を蹴る。蹴られたことに怒った一匹狼の不良は族のメンバーにビンタをする。総長が止めて「焼きが足りないみたいだね」みたいな流れになってまたかごめかごめをやる。これがループする

 

このループで毎回ビンタされるメンバーが固定されてしまうというところで2つ目の笑いがあった。蹴る役のメンバーはあの手この手で蹴る役から逃れようとするが毎回ビンタされてしまう。

 

やっとの思いで蹴る役をなすりつけることに成功したメンバーだったが一匹狼の不良は後ろを振り向いて顔を確認してまたずっとビンタをしたメンバーをビンタした

 

この話で伝えたかったのは子鴨は最初に見た動くものを親だと思いずっと付いていく刷り込みのことだったのかなと思った

 

・TO-KYO

久々に東京に遊びに来た大阪人の2人。東京にいる変な人を見ては東京のやつは変わってるなと話す2人

 

その中に右腕をぐるぐる回す人がいて最初は奇妙がっていたが周りの人も全員右腕をぐるぐる回してしまいには大阪人の片方もそれが伝染してしまう

 

右腕を回すことが何の暗喩なのかは分からなかった。でも当たり前だと思っていることが当たり前ではないこともある、人は知らないうちに洗脳されている…みたいなことを伝えたかったのかなとも解釈できた話だった。右腕を回す人をグルオ、グルと呼んでいたのはオウム弄りのようでもありブラックだなとも感じた

 

 ・X、燃える

SMクラブで火事が起きるといういきなりおかしな場面から始まる

 

プレイ中に火事にあって縛られたままの客の男がいて店員が逃げるように言うが実は客の男このSMクラブの向かい側にある会社に勤務していたのであった。野次馬に会社の人もいるから恥ずかしくて出れないと命の危機が迫っているのに命以外のことを優先してしまう。プレイではマゾになれても世間の目相手にはマゾにはなれないということなのだろうか。ここは笑いどころなのかも判断に迷った場面だった

 

客の男が戸惑っていたら声がして他に誰かいるのかと思ったら自分よりもさらに過激なプレイをしていたX字の道具で磔刑みたいにされていた男がいた。磔刑の男は実は客の男の上司だった。そして女王様が現れるのだがこの女王様が客の男と付き合っている上になおかつ上司の娘で関係がややこしくなってしまうところは面白かった。そして何をトチ狂ったのか火事なのに娘さんを僕に下さいという流れになる。頼む男のそのタイミングじゃないだろ感もおかしかったしベタなコントのシチュエーションである婚前交渉をここで使うのか、物は使いようだなとも思った

 

話が進行していくうちにどんどん人間関係がつながっていくところが面白かったというのが結論だった。

 

・こんな夜に…

舞台はバー。バーテンダーと客の会社員の2人

 

会社員は思いを寄せている女性にプロポーズができないまま海外転勤を控えている。今日もその女性が来るはずだったが女性は来ない

 

そんな男性を思ってバーテンダーが気を利かせてオリジナルカクテルを作る。曲も変えましょうとレコードを取り替える…ところまではよかったのだが曲がノリノリの曲がかかりバーテンダーも激しく踊りながらカクテルを作る。時には会社員に熱く絡みついたりもしてカクテルができる。オチは飲んでみたら美味かったというオチだった

 

ただ自分が想像していたオチとは違ったものだった。自分が想像していたのはバーテンダーが会社員に熱く絡みつくところに思いを寄せている女性が入ってきて1分間くらい無音が続いて終わる…みたいなのだった。言うなればジョン・ケージ4分33秒みたいな感じ…?でもこれはこれでありなのかなとも思った。あと違うレコードをかけたらどうなったんだろうという部分で想像が膨らんだ

 

・この街

A公演のあの時…。の後日談ならぬ前日談みたいな世界だった。急に街を出ようとする男(A公演あの時…。で刃物を刺された男)と引き止める男。

 

なんとか引き留めようとするが街を出ようとする男の決意は固く引き止める男が折れる。それならせめて餞別を渡そうとするがそれも頑なに断る。ここらへんからこの話のルールが何となく分かってきだす。

 

街を出ようとする男はどんなものでも意地でも受け取らない男だったのだ。

 

話は急転してバイクで駆けつけた女が現れる。女の話から街を出ようとする男は極道の組員で幹部を殺してしまったがために街をでなくてはいけないことが判明する。一刻も早く逃げなくてはいけないのだがヘルメットを受け取らない。さらに組員の男の仲間が刺された状態で来たのにやはり受け取らない(受け止めない)

 

これは何の暗喩かは分からなかった。でも面白かった

 

・ゾンビの美学

夜道で女性を襲おうとするゾンビたち。だが新人ゾンビは格好からし狩野英孝みたいだし上手く襲えない

 

その後先輩ゾンビからのダメ出しに入って「ゾンビたるもの~」みたいな説教になる。先輩の中に一人だけ比較的ゾンビ歴が浅く(?)そのくせ先輩風は吹かせたがるけれど的外れみたいな痛い先輩ゾンビがいてちょくちょく掻き乱してくるのが面白かった

 

先輩ゾンビの説教は昔手伝っていたとある大喜利大会を思い出した。大喜利のお題の種類の一つに「なしなしのあるある」というのがある。例えば「雑誌『月間忍者』最新号の特集は何?」みたいなのがある。月間忍者なんて雑誌はないし忍者の世界観に雑誌もない。でも、もしそんなのがあったらどうなんだろうという想像がボケにつながり大喜利になる

 

この話でもゾンビの世界では腐った臭いがいい香りというのがそれだと思った。モンスターズインクでもマイクが香水をつける時香水の香りが生ゴミだったみたいなシーンがあったようなことを覚えている。他にもゾンビ界の都市伝説でコンビニ弁当を食べたら防腐剤で身体が腐りにくくなってしまうなど色々工夫がされていて面白いなと思った

 

・おせつとしおりときょうた

失恋したおせつという面倒くさい女(後述)を励まそうとする話

 

失恋したおせつ(女性という設定で女装した男の人が演じてる)を励ますためおせつの友人であるしおりは彼女の友達であるきょうたを呼ぶ

 

きょうたからしてみたら友人の友人なので気乗りはしない。それでも励ます流れになって微妙なクオリティの古畑任三郎をやらされたりきょうた自身の失恋談でおせつを励まそうとする。

 

おせつも励まそうとしてくれるきょうたのことを申し訳なく思い謝っていた。しかし笑いのスイッチがボディーブローのように後効きでやって来て大笑いする上に謝っていた時とは正反対の無礼な人間になってしまう。

 

笑いのスイッチが入ってしまったおせつはきょうたのことをさんざんコケにしだす。ブチ切れたいところだがそれを耐えるきょうたの辛さがひしひしと伝わってきた。しおりはおせつのことを笑いやすい人『ゲラ』だと言っていたが自分は落語厩火事に出てくる髪結のお崎さんみたいだと思った。全ての感情が全力投球な上に感情がころころ変わりやすい面倒な人、といった感じ

 

するとおせつが笑いすぎて過呼吸を起こす。最初は止めることができたがおせつは笑いすぎによる過呼吸で死んでしまう。それを見たきょうたとしおりも笑ってこの話は終わる。人が死んでいるのに笑う、というのが怖いなと感じた。この笑いは鬱陶しい存在がいなくなったことによる喜びなのだろうか理由は今でも自分には分からない

 

・日本の形

これは早い話が『美味しんぼ』のパロディだった

 

山岡士郎的な人と海原雄山的な人がおむすびで対決をするのだけど山岡は自然のものを使ったおむすびを用意したのに対して海原はこともあろうにコンビニのおむすびをわざわざ再現したものを用意した

 

審査員達は添加物の入りまくった海原のおむすびを絶賛して挙句の果てには山岡のおむすびをボロカスに言ってしまう。でも単純に「食品添加物は悪いものですよ」ということだけを伝えたかったのではないような感じもした。

 

なんというか海原もかつては山岡みたく自然のものが美味いと思っていた側だったけれど添加物に毒されてしまった、すなわち「価値観は変わりやすいもの」というのもこの作品で伝えたかったことなのかなと思った。特にこの作品の山岡以外たち(つまりはボケ全員)が洗脳されたかのように添加物の名前であるグリシンを連呼しているところにブラックなものを感じた

 

また、山岡が説明する際に海原が説明を奪ってしまうところのタイミングがある種大縄跳びや高速道路の合流みたいな難しいものなんだろうな、それを上手く入ってくるのはすごいなと思った

 

 

・まとめ

今回もただ面白いだけではなく色々と考えさせられる作品が多かったなと感じた