だるい話NEO

引っ越したらしく

自称芸人というお芝居を見てきた

劇団YAMINABEの自称芸人というお芝居を見た。その感想でも。いかんせん簡潔にまとめるのが下手くそなので文字数は感情量ということで…。敬称略な上にネタバレを多く含んですいません。

 

 

大まかなストーリー・世界観としては又吉直樹の火花に似ているような感じがした。ただ別にそれが悪いというわけではなかった。露骨に火花をパクってやろう意識したのではなくおそらく世の芸人の大多数である「テレビに出ていない芸人のリアル」を描こうとしたその意図が似ている、そんな感じだった。だから不快感みたいなものはなかった。

 

売れない芸人がいてどういった芸人人生を歩んできたかを描いたそんな作品。

 

主人公の金森は友人の今井を強引に芸人に誘って、ニッカニカというコンビを結成したところから話は始まった。その演技からこの金森という男はどことなく天才肌で感覚で生きてきたのかなというのが伝わってきたのは金森役の白石の演技力の高さなのかなとも思った。

 

そして序盤でロードオブメジャーの心絵が流れる。ベタなんだけどこのベタさが気持ちよかったしこれから始まるぞという意気揚々とした感じが分かりやすくてよかった。

 

居酒屋のシーン。店長の小泉とアルバイトのりんちゃんと今井、ルーキーの芸人ジンリッキーピン芸人(?)の相川が飲んでいる様子。小泉とりんちゃんは何歳差という具体的な設定は分からないけれど親子みたいな関係という感じが伝わってきてよかった。アットホームな店なんだなというのが伝わってきた。先輩芸人と若手芸人の会話、先輩芸人が語る芸能界にワクワクする若手、後輩にもいじられるいじられ系の先輩芸人がリアルな感じがした。仕事柄似たような現場を見てきたからそう感じたのかも知れない。

 

その時今井の相方金森が入ってくる。コンビだからといって二人で仲良くは飲むというわけではない。芸人コンビが不仲とまではいかなくともテレビを見て抱くイメージと実際の仲とで開きがあるというのは芸人の世界ではよくあるらしいと聞いたことがある。テレビの時は仲よさげにしているのもあれもあくまでも仕事の一環、ビジネスライクな関係の芸人というのは結構いるらしいというのはアメトーークで「コンビ同士で仲がいい芸人」という回があることからもそういうことなんだろうと遠回しながら認知はしていたけど。

 

今井は妻美幸との結婚記念日を忘れていたことに気が付きあわてながら居酒屋を出る。

 

今井が家に帰ると一人の女性がイライラしながら待っていた。事前情報を知らなかったのでこのイライラして待っていた女性が今井の妻なのかな、今井は後輩からも弄られていたし家庭内でも嫁の尻に敷かれているのだろうかと思っていたらそうではなかった。イライラしていたのは今井の妻の妹葉月だった。今井の妻美幸は夫のためなら自分が身を粉にして働くことも厭わないくらいには献身的で、今井を好きになったのも夢に向かって頑張っているところに惚れたからという芸人の妻の鑑みたいな人だった。その献身ぶりと芸人として売れないギャップが見ていて切ない気持ちにもなった。

 

ただ、実際の家庭で夫婦と妻の妹の3人暮らしってあるのだろうかというのが気になった。単に自分の想像力欠如なのかも知れないし芝居の都合上なのかも知れないけど。

 

芸能事務所のシーン。ニッカニカとジンリッキーに転機が訪れる。元演者で現プロデューサーの小山から賞レースで優勝戦まで出たら番組に出すという話が舞い込んでくる。芸人としては願ってもない大チャンスである。奮起する各々の芸人たち。ここでジンリッキー内藤はアクシデントに見舞われる。実家の父が病に倒れて賞レースがだめだったら家庭のためにカタギの仕事に就いてくれないかと突きつけられる内藤。芸人として売れたいという気持ちとだめだったら芸人引退という辛さは毎年出てくる解散・引退する実際の芸人の中にもしかしたらこういう理由で芸能界を去った人間もいたのだろうか…そう想像してしまったくらいにはリアリティがあったシーンだった。

 

芸能事務所のシーンではマネージャーの新村が出てくる。新村は芸人を見守るという名目でアイドルを見たがる調子のよさもあるけど時には空転するくらい芸人のことを気にかけてくれるなんていうか愛すべきポンコツ枠みたいな感じだった。どことなく憎めないというか。芸能界のことはよく分からないけれど芸能人のマネージャーは議員の公設秘書みたいなものみたいな「芸能人>マネージャー」イメージが前からあった。ここ数年くらい前になってやっと大勢の若手のスケジュールを管理する統括責任者みたいな「芸能人<マネージャー」みたいな人もいるんだなと認知したくらいだし。そんなイメージしかなかったので新村の存在はいい意味でマネージャーのイメージ像が分からなくなった。

 

一方ニッカニカも奮起するのだが上手くいかない。ネタの打ち合わせをしても噛み合わないニッカニカ。ネタが終わったあと金森の彼女恭子は荒れ気味(?)の金森に苦言を呈するも金森にキレられてしまう。ここのところが今井の妻美幸との対比になっていて脚本がうまいなと思った。

 

また、このあたりから出てくるニッカニカのファン節子は話を重苦しくさせすぎないかき回し役として上手く機能していたなと思った。あと芸人のファンには時々おかしな人がいるということの表現としてもこういう人いそうというのが伝わってきた。

 

そして賞レース準決勝の日、金森は謎の失踪をしてしまう。

 

話は賞レースの後日談となる。ジンリッキーは賞レースで決勝戦まで駒を進めたことで爪痕を残しそれが功を奏して売れだすようになった。そして取り残された今井との明暗の差、自分より後にデビューした後輩の方が先に売れてしまう、それまで積み上げてきた経験値が否定されてしまうという現実を突きつけられた先輩芸人の辛さが見ていて辛かった。

 

金森の失踪で一人になった今井。一人でMCの仕事もするが上手くはいかない。そんな今井を心配した後輩の相川に新しい相方候補を紹介した時に「あいつとやらないとお笑いじゃないから」と言った台詞は相方愛でもあり武士は食わねど高楊枝的な悲しいプライドのような感じにも取れて複雑な心境になった。

 

美幸は美幸でどんなにだめになろうと芸人として夫が売れることを信じていた。それゆえに、生活を支えるためパートと夜の仕事を掛け持ちするよう動くがかつての仕事仲間香奈にそれを止められてしまう。香奈は香奈で美幸を女として気遣い離婚を勧める、でも美幸は芸人の妻として支えるのが使命と感じてそこに食い違いが生じる。どちらも大事な人を思ってのことなのでどっちも正しいし見ていて辛かった。

 

そんな中芸人たちが集う居酒屋にもある異変が起きる。新しいブロック長坂本が配属になったことである。この坂本が世の飲食業界を象徴するかのようなブラックぶりでなおかつ非常に嫌味ったらしい人間、ストレスがたまりやすい自分は早くこいつが一転攻勢で罰せられて苦しむところを見たいと思ったくらいだった。そう思ってしまったということは坂本役の沼倉の悪役としての演技が上手かったということなんだろうな、と。というか坂本が登場するまではこの居酒屋は個人経営でやっているものとばかり思ってもいたけれど。

 

坂本は悪事の限りを尽くし今井と美幸に対してパワハラをしていく。正直ここで密かに悪事を録音していたみたいな流れがあってもいいくらいには耐え難いものがあった。

 

そういえばこの辺で葉月と内藤の距離が縮まるシーンもあったっけ。最初は偶然出会っただけなのに徐々に恋仲に発展していったのは思わず二人が結婚したらいいのにと思ったくらいだった。また、内藤の父が死んだ時に内藤が言った「一つでも仕事を空けたらそこに別の若手が入ってすぐに落ちるから仕事は休めない」という台詞に芸能界で生きることの辛さの一部が切り取られていたのが印象的だった

 

話も終わりに近づき重要な場面を迎える。金森の失踪の原因が明かされる。金森が失踪したのは若年性アルツハイマーだった。賞レース前にあったおかしな言動もそれが原因だった。真相を知ってどうすればいいか分からなくなる今井。

 

それから病の金森とともに生きていこうと決めた今井。冒頭と同じシーンになる。漫画を読みながら急に芸人をやろうというあのシーン。再び流れる心絵。再出発なんだなと思った。

 

居酒屋のシーン。ニッカニカの最後のライブ。後輩のジンリッキーにゲストの芸人も来てネタを披露する。ここは普通のお笑いライブと変わらなくて見ていて自分は芝居を見ているんだよなと不思議な感覚になった。

 

ニッカニカの出番になろうとしたところで坂本がいちゃもんをつけ出す。坂本を殴る金森、小泉もこれまでの悪事を本部に伝えるぞとすごむ。覚えていやがれと退散する坂本。ざまぁみろ感爽快感という意味では坂本の転落ぶりの詳細な描写がなくて残念にも思えたけれどそれは多分自分がストレスがたまりやすい性分だからそう思ったのだろう。そこまで詳しくしたら野暮ってものなのかも知れない。

 

ニッカニカの漫才では金森がアルツハイマーになってしまったため忘れちゃいけないノートというのを用意したけれどそのノートの内容がカオスだったという漫才。老いと戦いながら譜面台のようなものを置いて台本を読みながら落語を演る三遊亭圓丈を連想した場面だった。漫才の最後で金森は台詞をトバしてしまう。金森はアドリブで「忘れちゃいけないこと」を言う。自分を応援してくれたファン、芸人仲間、恋人、そして今井への感謝で芝居は終わった。

 

長々と書いてしまったけどこんな感じだったかと思う。あらすじが多い下手くそな読書感想文みたいな感想ですいません。

 

最後に自称芸人というお芝居のよかったなと思ったところをまとめたら

 

・一つの話の中に喜怒哀楽全部を詰め込みながらも破綻しなかった(破綻がないように感じられた)

・起承転結が分かりやすかった。かといって見ている途中で露骨に「あ、変わった」というのではなくて話が終わってあぁそういえばあそこで大きな転機あったな…みたいな感じで

・世の中は色々なところで人間と人間の関係があってそこにドラマがあるんだな、それが面白いんだなと感じられたところ

・綺麗な「見ている人にお任せします」というラスト。かっちりとした作りにするんじゃなくて○○という将来もあるだろうな、いや××という将来かも知れない。そういう見ているの想像力を膨らませるようなラストは上手いなと思った。プレバトの夏井先生が言うところの「読み手を信じる」みたいな感じか。

 

がよかったなと思った。また劇団YAMINABEのお芝居があったら見に行きたいと思った。